案外
知られていないグランドピアノのエピソード
「エラール」調律学校では ピアノの歴史で「1821年 エラール
レピテイションレバーの発明」と、たった一行くらいしか紹介されていませんが、実はエラールには
面白いエピソードがあります。
*レピテイションレバーによりダブルエスケープメント機構が完成(以後:ダブルエスケープメントと記載)
「エラール」1700年代後半にピアノ作りを始めていますが、ヨーロッパではギルド制度があり、自由にピアノを作ることが出来ませんでした。そこで、エラールは、当時、絶対王政(ルイ16世の時代)でしたので、王室に取り入れられるようにしてピアノ作りをしていました。特に、王妃マリーアントワネットには、何台ものピアノを贈っていたようです。しかし、フランス革命でルイ16世と共に王妃マリーアントワネットも1793年に処刑されました。この時、エラールも王室側の人間と見られていましたので処刑の対象となり、イギリスへ逃亡します。イギリスへ渡ったエラールは、イギリスのピアノメーカー「ジョン・ブロードウッド社」のピアノを研究します。(ジョン・ブロードウッド社のピアノはベートーベンが弾いていたとして有名です)ジョン・ブロードウッド社のピアノアクションはイギリス式ですが、アクションには、ウインナアクションとイギリス式の二通りあります。その違いは、ウインナアクションは、表現力は優れていますがタッチは安定していません。それに比べ、やや重めのタッチですが、非常に安定したタッチの得られるイギリス式アクションに、エラールはダブルエスケープメントを採用しました。
この発明は、火縄銃で戦争している時代に機関銃を持って来るようなもので、ダブルエスケープメント搭載のピアノは、誰もが弾きたいピアノとなり、とても有名なブランドになりました。ベートーベンやショパンやリストなどは、このピアノの為に作曲をしています。ベートーベンでは、「ヴァルトシュタイン」「ソナタ
第3番」「熱情」などがそうです。速いパッセージやトリルなどが要求されている曲ですが、ピアノは発音体までが遠く表現力が弱いためトリルや装飾音で表現力を豊かにしています。
エラールのピアノで有名なのはリストです。彼は、超イケメンで演奏会では
毎回 失神者が出るほどだったようですが、ピアニストとしても優秀でパガニーニの主題による超絶技巧の練習曲「ラ・カンパネッラ」があります。今
普通に聴かれているのは第3番の「ラ・カンパネッラ」ですが、1番 2番
より、さらに超絶技巧を要求された編曲となったものです。このダブルエスケープメントのエラールがあったからこそ出来た曲です。ショパンは気分がいい時には「プレイエル」を弾き、気分が優れない時には「エラール」を弾いていたと言われていますが、この演奏会に来て頂けるとその意味がよく分かります。
今回使用されるエラールは1845年製です。弦は平行弦ですが、イギリス式アクションにダブルエスケープメントを搭載したもので低音弦は銀の巻線です。銀の巻線のピアノも、滅多に聴けるものではありません。今では当たり前のように、全てのピアノメーカーが、イギリス式アクションにダブルエスケープメントを採用しています。このピアノは、正に現代のピアノの原点とも言えるでしょう。
このコンサートは、日本ピアノ調律師協会ならではの究極のコンサートです。
「海老彰子」
「カワイSK−EX
」 「ダブルエスケープメント搭載のエラール」
この3者が一体になって演奏されるコンサートは、もう二度と出来ないかもしれません。これからグランドピアノを語るとき、自信を持って語ることの出来るゆるがない根拠となるでしょうし、貴方にとって財産になるはずです。